A Very Violent 'Passion' Part 2
《 聖書との均衡 》
ローマの近郊、カラカラ帝の浴場やカタコンベなどの古い遺跡を過ぎたあたりに有名な伝説的撮影所チネチッタがある。サウンドステージ群の裏側、スコ-セシ監督が「ギャング・オブ・ニューヨーク」で使った木の歩道や店の表側のセットなどからまっすぐ横切って歩いて来るとそこにエルサレム、あるいは少なくとも2.5エーカーに及ぶそのレプリカが現れる。
美術デザインのフランチェスコ・フリジェリとセット担当のカルロ・ジェルヴァージは神殿や宮殿の中庭、法務院そしてポンテオ・ピラト総督の館を含む巨大で完璧なセットを作った。それはまさに聖書にのっとって事実に近づけた壮観な景色だ:
巨大な円柱、石の階段、背丈の倍はありそうな重厚な木の扉...のみならず風化したローマの紋章、商人達の天蓋、おびただしい数の陶器類までどれもこれも聖書の世界に入り込んだ錯覚に陥るに充分だ。
ゴールドで化粧された神殿の壁の内側では、あたかも絵画のモデルのようなポーズのまま指示を待っている100人以上のクルーとキャストたちが吐き出す熱気で空気が霞むほど。彼らの身につけているベージュ、茶色、黒の衣装は手縫いで、オスカー受賞のマウリツィオ・ミレノッティの意匠によるものだ。
特殊効果とメーキャップ、それに個々の俳優に合わせた特別あつらえの髭、ヘアピース、かつらなどを担当するスタッフはメルがロスアンジェルスから引き連れて来た。なぜならイエスが痛めつけられるシーンで、彼が必要とするものを創りだせるユニークな能力を彼らが持ってることをよく知ってるからだ。
ストーリーを彼が言うところの「いかにも作り物っぽいハリウッド製歴史もの」じゃなく本物のように見せること、これは大切なことだとメルは言う。 そのために彼は「パトリオット」で一緒に働いたカレブ・デシャネルを撮影監督に抜てきした。
メルとデシャネルは照明効果をイタリアバロックの独特な画家カラヴァッジオの絵からインスピレーションを得た。
「人々がこの画家の名を知った主な理由は監獄に出入りした回数が余りにも多いと言うことからだろう。彼はワイルドで希代の民衆扇動家でもあった。 でも彼の作品は実に美しい。猛々しく暗くそれでいて神聖な趣があり、同時に奇妙で風変わりだ。とても不思議な絵だ。だが写実的でもある。カレブにあんな感じの仕上がりにしたいと伝えたら簡単にオーケイときた」
およそ40%が夜間か暗い灯りの元での屋内撮影なのだが、最初のラッシュを見てメルは胆をつぶしたと言う。
「Oh my God! こいつはまんま動くカラヴァッジオじゃないか!カレブは何でもなかったかのように "こいつが欲しかったんだろ、ん?" っていうんだぜ。なんとも無雑作な人さ」
駆り立てられるようにこの仕事をしてるメルだが、セットでは終始愛想よく和やかな振る舞いを維持している。キャストやクルーには敬意を持って接し、ピエロの赤鼻をつけたり、メガホンを通して盛大なゲップを披露したりしてセットを明るく保つことを良しとする人でもある。
彼のそんな行いを病的に異常な活動性と誤診するのはいとも簡単だろう。でも本当は彼は自分のしてることが単に気に入ってるのだ。
キャストとクルーの出身地はそれこそ国際的に入り交じっていてイタリア、ルーマニア、ブルガリアといったヨーロッパ人だけではなくアルジェリア、チュニジア、イスラエル、そしてアメリカやイギリスからも来ている混成グループだ。
「この中にはキリスト教徒だけでなくユダヤ人もイスラム教徒も仏教徒もいるんだ。不可知論者さえもね。みんな一つになって完全な調和のもと、この映画に取り組んでいる。理想的だよね。そして、この映画に関わった全員が何かしら良いことを得てるんだ」
彼らは完成次第これをまず国連で公開すべきだろう。
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