By Holly McClure / New York Daily News January 26, 2003
メル・ギブソンはこれまで彼自身がとても激しく情熱的な男を演じて来た。「ブレイブハート」でのウォレスはスコットランドの自由を得るためにその情熱を捧げていた。「パトリオット」ではアメリカの自由独立と家族を守るために英雄的行動を見せた。
最近の「ワンス&フォーエバー」で彼はベトナムの戦場からできるだけ兵士を生かして帰郷させるためその全身全霊を捧げて戦う指揮官を演じていた。おっと、粘土アニメ「チキンラン」のあのお調子者ロッキー・ローズさえ最終的には飛べない仲間たちと一緒に必死になって、自由へと羽ばたこうとしていたじゃないか。
だが今回のプロジェクトはそれら過去の総てよりもさらにあなたの心に迫り、掻き立て、そしてすごいリスクを含んでるといって間違いないだろう。
1993年に「顔のない天使」1995年にアカデミー賞を得た「ブレイブハート」とこれまで2本監督作を手がけたメルが今回選んだのは、イエスの人類に捧げた短い生涯のうちの最後の12時間のみを描く The Passion。現在撮影中でおそらく初めて、キリストと呼ばれた人の被った裏切り、裁きそして死に焦点が絞られたものになるだろう。
それらは絵を見るように生々しく十字架刑そして墓での復活へと導かれるはずだ。 すべてイエスの時代に話されていたとされるアラム語とラテン語で俳優達は演じている。
アラム語をマスターしてる観客なんてそうそういない。ふだんは字幕の助けを借りてそんなものでも楽しめるんだが、どっこい今回はそれほど幸運じゃないんだ。字幕なし。
これが非凡な才能の 打ち出す一打なのか、輝かしいキャリアを棒にふることにさえ無頓着なのかはともかく、確かなことはハリウッドの大スターといわれる人物がハリウッドの論理をぶち破ろうとしているまさに目が覚めるような一打だということは疑いない。
なぜこんな一握りの人しか理解できないような言語を使って作るのか?
「映画に強い確実性とリアリズムを与えるはずだ」
「字幕をつけたら僕が見て欲しいと狙った効果がぶちこわしになる。画面の下の方に次々出て来る文字を読むことに注意をそらされて映像世界に引き込まれることを疎外してしまうだろう。それは今回望むところじゃないんだ。望んでることは、僕の映像を主体とした描写で言語の壁なんか超えられるんじゃないかということなんだ。もしも、もしも失敗だったとしても少なくとも記念すべき失敗だということで歴史に残る」
さらに加えてThe Passionがアラム語でなされる大事な意義は、イエスがイエス自身の言葉で語ることによって、より彼の犠牲が再確認できるかもしれないということだ。
つまり今までハリウッド製のアメリカナイズされたキリスト教映画からはピンと来なかったものをメル・ギブソンの映画からは確実に得られるかもしれない。
Entertainment Weekly 誌によるとメルはスピルバーグ、トム・ハンクスに続いてハリウッドビジネス界では3番目に影響力があるとされる。いいかえれば彼が望むどんな企画でも、たちどころにスタジオが配給に名乗りをあげるはずという結論に行き着くのはごく自然だろう。
だがThe Passionを迎えたのはごく僅かな興奮だけだった。
「僕とパートナーは、一緒に作ってくれるスタジオを探しにいったことは行ったんだが誰も触ろうともしなかった」と笑いながら告白する。
「みんなこう言うんだ。" 気でもふれたのかい?なんでよりにもよってアラム語なんかでやらなきゃいけないんだ?" そりゃそう言うのもわかるよ。 ぼくだってこの映画の宣伝文句を聞けばとりあえず拒否しちゃうだろうな(笑)」
彼と彼の製作会社Icon のプロデューサーたち、ブルース・デイヴィ、スティーヴン・マクェヴィーティらは2004年の復活祭(4月上旬) 公開をめざしてるが、それまでに配給会社を見つけることができると強く信じている。
10年間の胚胎期を経て今産み出されようとしてる作品は彼にとってかなり骨の折れる仕事だ。ベネディクト・フィッツジェラルド("Wise Blood")と共に書いた脚本はマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4福音書、メル言うところの「得体のしれない4人の物書きたち」の記述をもとにしている。
さらに彼が偶然自分の図書室で見つけた古い本("The Dolorouos Passion" by Anne Catherine Emmerich)が彼を刺激したと言う。
ある日別の本を取ろうとした時、その本が文字どおり啓示のように彼の手に触れるまでそんな本が自分の書棚にあったことを知らなかったと言う。 以来じっくり時間をかけて書き、練り、修正を重ね、時を待ちながら彼はキリストへの頌歌を自分の中で暖めていた。
The Passionではジム・カヴィーゼルがイエスに、ルーマニアのベテラン女優マヤ・モルゲンステルンが母マリア、そしてイタリアのモニカ・ベルッチがマグダラのマリアに選ばれた。周知の理由によってメルは国外にスタッフやロケーションを求めなくてはならなかったが、まさに探していた地をイタリアで見つけた。
「映画の舞台にふさわしいと言うのに加えてイタリアを選んだ理由は、そこが働くのに最適だということなんだ。ヨーロッパの優秀な才能を集めるのに楽だし、様々な職種に通じた実に豊かな量の人材に惠まれてるから」
こうやって十字架刑のシーンは1964年パゾリーニが奇しくも同じ人物を扱った映画「奇跡の丘」を撮った場所で撮影された。 その場所南イタリアのマテ-ラはメルに言わせると;
「あるセクションなんかほんとに2千年の歴史を持ってるんだ。建築物に限らず、石のブロックのひとつひとつ、回りの景色、岩だらけの大地すべてが、今まで我々が馴染んでいるあの金をかけたセットと同じエルサレムの雰囲気をそっくり持っている。そこにあったものをほとんどそのままあてにできた。実際初めてそこを見た時感動で気が狂ったよ。だって完璧だったんだから!」
part 2