Christ Complex

主演ジム・カヴィーゼルが語るThe Passion、監督メル・ギブソン、そして自分の事 Part 1

By GAYLE MACDONALD/ Globe and Mail, Canada / December 21, 2002

Jim Caviesel as Jesus for The Passion Of The Christ
Jim Caviesel as Jesus

縛り上げられ、文字どおり身ぐるみ剥がされてイタリアの岩の上で十字架にさらされた15日間...この責めは長いハリウッドの歴史上もっとも異様な企画のひとつに全責任を負うメル・ギブソンにあるだろう。まず何といっても今は使われてない言語で演じなくてはならないんだから。 
ハリウッド俳優の中でももっとも聖なる魂の持ち主といわれるジム・カヴィーゼルに今回の役柄についてコメントを貰った。 

マテ-ラの古い遺跡がある地区。風が吹きすさぶ谷間の崖。高い十字架に固定された人物は腰布しかまとっていない。全身に生々しい傷そして体中が真っ赤だ。 ジムはここでずっと寒さと戦い、かなり骨の折れる仕事に専念していた。特に十字架刑のシーン。彼が再現してくれる。 

「300メーターはありそうな崖に囲まれたグランドキャニオンみたいな谷間の縁に立てられた十字架。僕に見えるのはそんな景色だけ。谷間の底に川が流れ、そこから風が吹き上げて来て自分がいる台地に文字どおり体当たりするんだ...」柔らかいちょっと怯えた感じの声。 

「風が十字架を攻撃しようものならまさに骨まで震える。十字架が揺れ出すと、壊れるんじゃないかってどうしても考えてしまう...できることは震えることだけだ - あるいは祈るだけ 」 

今までThin Red Line やMonte Cristoでもかなりの労働をして来たが決して心身ともこんなに消耗することはなかったという。 

「十字架シーンの初日、低体温症ギリギリだった」と乾いた笑い声をあげる。 
「そこで彼らはヒーターをたくさん用意してくれたんだが、風が強い時は助かった。でも風が止むと足が焼けるだけ。何か腹に入れようとしたが吐き気がしてだめだった。この役が生涯でも最もつらく難しいということを、そして途方もなく素晴らしいものだということを知った。 
今、日程が半分終わってあと僕の出番はまだ大変なのが一回残ってる。いっぺんで済めばいいけど」  

Aftermath of the Crucification...
Aftermath of the Crucification...

黒髪、長身、ぜい肉のない体つき、やや骨張った顔を見れば誰でも彼に神の子のイメージを見るのは正直だろう。事実メル・ギブソンのリストの第一候補だった。
さらにジムはイエス役を依頼されたのはこれが初めてじゃなくメルで4人目だと告白。今までは返事はいつもノーだった。今回承諾したのは -- メル自身が自宅にチャペルを持つほどの敬虔なカトリックである事実に動かされたという。メルならこのプロジェクトの重要性を誰よりも理解してる。 彼なら敬意を持って取り扱う資格があると約束されたも同じ。
さらに、メルは再現するのが可能で確実性の強いイエスの最後の12時間だけ -- ゲッセマネの園からその死まで -- を描こうとしている。
「ベン・ハー」のような壮大なエピックでは全くないし、スコセッシの「最後の誘惑」のようなジムから見れば奇想天外なものでもない。 

メルとジムはどのようにイエスが死んでいったか敢えてぼかさず、残忍さすら避けずに正直に見せようとプランを練った。俳優たちはヘブライ語、アラム語、ラテン語といった古語で話し字幕もつけない。(ハリウッドはさぞやゾクゾクしてるだろう)

彼が陥ってる架空の生き地獄はなにも絵空事ではない。今世界を見れば歴然だ。イエスが理不尽な死を遂げたことに由来するものだろうか。 

「 実際毎日祈らずにいられない。祈りが必要だ」
携帯電話の向こうから彼が告白した。彼とアシスタントはローマの混雑した通りを車で移動中なのだ。

「義務だからではない、心の底からそうしてる。僕にとっては平安を得る唯一の方法だから」

彼はいつも十字架状のスカプラリオ(カトリック教徒が信仰の印として服の下に身につけている布)を離さずにいる。危急の時にはこれは特に大事なものになる;私はカトリック。司祭をすぐに呼んでくださいというサインなのだから。

過酷な環境の元での苦痛を伴う撮影にも関わらず彼は強く主張する -- メルのこの作品に関わることができてスリリング、いや、光栄だと。 

「この映画をこの時期作ること...尋常じゃない。クレイジーかもしれない。でも...」

そして彼は自分が演じることについては偶然であって、ほとんど神が定めたものだと信じてる。 

「僕がカトリック教徒であるとか言うことは関係ないと思うんだ...単なる偶然だ。実際メルも僕が(イエスが死んだ時にそうだったとされる)33歳でちょうどいいということでオファーしたんだと思う。それが大きな理由。すべては神の意志で彼はこの作品に暖かい手を差し伸べていらっしゃると強く信じてる。いつも聖母マリアにお願いしてる。どうかあなたの息子をあなたの意に沿うよう演じられるように道を示してくださいと」

映画は2月までここイタリアで神への献身と映画作りへの愛と情熱でのみ撮影されるといっていいだろう。これはメル・ギブソン -- 彼自身いわく、ラテン語でないミサにはめったに出ない頑固な回顧主義的カトリック -- も同じだ。

すでにロスアンジェルスでいやと言うほど、同業者達の呆れ顔と冗談だろうと言う決まり文句をどっさり頂戴しているので、あっさりと認めている。つまり死語となってる言葉を使う映画を配給してくれるところを見つけるのは難しい、いや、不可能かもしれないと。
しかし製作資金と監督の責を負う彼はこの彼のオリジナルによる聖書の物語が皆の心を打つと信じ続けている。 カヴィーゼルも同じ思いだ。
字幕の助けを借りなくても絶対みんな理解できると信じて疑わない。 

「頭じゃなく心で理解できるんだ。そうとしか言えない」
電話の彼方でローマの喧噪が姦しい。でも彼は力を込めてそう言った。 

Mel Gibson directs: The Passion of the Christ
Mel Gibson, the director

「メルの中にふつう以上に穏やかで平和な心が宿ってるのを認めるのは簡単だった。撮影が進む過程で彼のうちから絶えまなく彼を動かしているものの大きな原動力はそれだと言うことに誰でも気がつく。そのせいで愛に満ちた実に美しい感情がいつもセットを包んでた。
そのおおもとはメルなんだ....僕だけじゃない、みんな毎日ハードでつらかった....彼は時には強い調子で自分の意見を通すこともある。監督だからね。でも彼の心の中はみんなに対する愛でいっぱいだと言うことは誰でもおのずとわかる。だからどんなにつらくてもやれた....」 

ここで彼はメルが彼を自宅に呼んで役をオファーした日のことを回想する。
「聞いた瞬間の僕の考え...なんてこった、こりゃ一か八かってやつじゃないか! 僕の半分はノーと言いたがっていた。あとの半分はこう言ってた。考えるな、反応しろ。で、イエスと答えた」 

「翌日再び彼と会った。おかしなことに彼はイエスをやることを思いとどまらせるかのようにこう言うんだ。『これをやることがどんなに大変か、わかってるのかい? これだけは言っておこう。僕なら絶対やらないね』だから僕はこう答えた....僕らはそれぞれみんな背負うべき十字架を持っている、でしょう?って。これで決まった」

このインタビューを行なった当日カヴィーゼルはちょうど17時間に及ぶポンテオ・ピラトと百卒長達による、ロープと鎖でなすがままに痛めつけられる尋問の場面を撮り終えたところだった。
十字架刑から比べれば楽なことは確かだが、それでも過酷な仕事だった。幸いなことにそれらはもう過去のこと。彼はあとは年が明けて鞭打ちのシーンを残すのみ。
正直言ってまたもや彼をして心身共にくたびれること間違いないだろう。 

 

「皮膚が破れ、肉が見えるまで打たれた体を作ると言うことはメークに途方もない時間がかかると言うことだ。10時か11時にセット入りするために、時には朝2時には起きて8時間くらいかけてそれをやる....日焼けしたあと体中がむずがゆいだろう、ずっとあんな感じ。おまけに天気が悪くて屋内で待機してた時はそのまま眠らなくてはならない」 

Part 2

Mel on the COVER

BRAVEHEART

Happy 15th Anniversary

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Variety, USA 1995
Variety, USA 1995

新しい年を迎えた。2010年。皆様におかれてもさらに良き年になりますよう。

日付けは1月2日になってるが、もう3日。1月3日と言えばメル・ギブソンの誕生日。「おめでとう、メル!」のついでに毎年この日に新年のご挨拶をしてる(^^)。

 

メル・ギブソンのファンサイトを運営する私にとっては、今年は楽しみが多い。公開を控えた2本の主演映画、監督するのが決まってるもの1本、春頃開始の主演作1本と久方ぶりに映画人メルがおおいに動く。できるだけ追っていきたいと思うが、また今年はたった4ページから初めた本サイトの10周年、さらにWhat Women Want 「ハート・オブ・ウーマン」のロスアンジェルスプレミアに幸運にも参加でき、幸運にも生身のメルギブソンに会えた記念すべき出来事の10周年も迎える。

10周年?! なんてこと、紀行文はそのうち書きます...などと言いつつ忙しさにかまけ、さぼってたら10年! 最近ひとしお思う。地球の自転が実は密かに速くなってるんじゃないかと....大昔古代マヤ人が予言してたのはこの事じゃないかと。しかし嘆いても仕方ない。自転は停まってくれないだろうし、やることはいっぱい。せめて10周年記念として上記プレミア紀行文でもアップしよう。

 

さて去年の暮れ続けてジャンルは同じ恋愛ドラマになるだろうが、全く毛色の違う2本を観た。ひとつは鑑賞券を得て久しぶりの劇場でロードショウとして、サンドラ・ブロック主演The Proposal「あなたは私の婿になる」を楽しんだ。

S・ブロックは好きな女優の一人だ。いったい美人なのかセクシーなのかよくわからない雰囲気が気に入ってる。コメディでは笑わせてくれるし、筋肉質に近い体つきに見えるがグラマラスなのもいい。

やり手のカナダ人キャリアウーマンがヴィザの更新ができないため、とっさに部下の若い男との偽装結婚を思いつき、彼の実家に行くはめになりドタバタが始まる。大都会シカゴからおおらかなアラスカに行くくだりは傑作。そこに行って部下の実家が土地の素封家でお屋敷のような家を見て驚くブロックの演技も最高。

しばらく見ればもう結末は推して知るべし。アメリカのロマンチック・コメディなら複雑な筋立てなし、不幸な結末なし、スピーディな演技とファニーな台詞、一人か二人の意地悪な妨害役...と約束通りの展開で、それでもブロックのうまいコメディエンヌぶりがおおいに笑いを誘い、ハンサムな相方、ライアン・レイノルズがちょっとすっとぼけた人のいい役回りで、あれよあれよと言う間に二人は本物の恋に陥る。ところでこのレイノルズ、確かにいわゆるイケメンで日本の女の子好みのように感じられたが、残念、私の好みじゃない。40歳くらいになったらどうかな。

安心して座席に身を預けられる映画の典型だ。問題提起や意識を刺激される事もあまりない。単純に楽しむ映画。この手の映画はアメリカならではだろう。アメリカの観客のためのアメリカ的ロマンスもの。以下に書くフランスの恋愛映画なんてきっとアメリカじゃはやらないだろう。

 

1962年フランス/イタリア合作 Le Repos Du Gerriere 「戦士の休息」。すでに別れてはいたが、妻だったブリジット・バルドーを主演に迎えたロジェ・バディム監督作品。同じ恋に陥っていく男女を描いてもこうも違うのかとあらためてフランス映画の妙を見せつけられた思い。この映画は昔一度劇場で見て、BB(ベベ)のふくれっ面の愛らしさにうっとりし、音楽の美しさに魅了されたのを覚えてて、今回ふと思い出しレンタルしたのだが、当時「戦士の休息」(原題通りの訳)と言うタイトルの意味するところが当時よくわからなかった。

偶然に出会った男に惹かれ一緒に暮らし始めるが、この男が何か病理的な暗さを持ち、不実なのだ。フランス映画、特に恋愛ものはアメリカの言ってみればわかりやすく結末まで読めてしまうようなプロットの作りよりも、なぜだかわざわざこちらをイライラさせるような演出や脚本になってる事が多い。実はそういうところも含めてフランス映画が好きなのだが、アメリカ的ストーリー展開に慣れてしまうと、とても不自然に感じられるかもしれない。

しかし実際の男女の心の機微とは単純なものではないし、はたからみれば不自然な行動や言動がつきものだ。この映画もそういう意味では単純でなく自然でない。つまり二人は知ってか知らずか心理的駆け引きをしてるのだ。駆け引きというより戦い。男が勝ってるように見えてその実、最後に笑うのは女。イタリアの廃墟の中で最後にBBにすがりついて愛を乞う男に対し、長い金髪を風になびかせ泰然と微笑むあのラストシーンがまさに戦い終えた戦士の休息なんだろう。つまり休息であってまだ戦いは続く...と匂わせる。男女の心の機微は尽きない。

2つの全く毛色の違う恋愛映画を見終わって、2つともそれなりに楽しめるが、私にとって心に残り、刺激を受け、女主人公になった妄想を楽しめるのは古くても不自然でも「戦士の休息」のようなフランス映画だなとあらためて認識した次第。

 


 

Last updated 10/23,2015

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