この映画の色彩的印象は茶と緑(とメルの青い目と血の色)。彼はこう言ってる:「けばけばしい色はなく土と自然をリアルに捕らえたアースカラーを求めたが、まさに望んでいた通りの最高の色だ」これはこのまま撮影のたった10週間前にせっせとロケハンをした賜物。そして700年前の昔そのままを残していた環境に恵まれた事もあろう。もちろん撮影監督ジョン・トールの才能に負うところも大きい。
歴史劇に伴う特殊な大道具、小道具、衣装などは監督の方針でできるだけ当時に忠実に再現された。タータンのキルトを織るために伝統職人が総動員された事からもその徹底ぶりがわかる。
最初の予定では戦闘シーンもスコットランドで撮るつもりだったらしい。「でもあそこは馬に優しい土地が見つからなかったんだ」結局たくさんの名競走馬を産出しているアイルランドの広々とした2つの平原が選ばれた。
ただ2つのシーン(イザベル王女と侍女が話す居城の中庭とウォレスが捕らえられた地下牢のシーン)のセットのためにほとんど廃虚となっているアイルランドの修道院に手を加え見事なセットを作った。現地では観光用にと地元の願いを汲み、セットを解体せずそのまま残された。
戦闘シーンの再現のためメルは戦闘場面を集めた数々のフィルムで研究。それらの中で特にひらめきと刺激を与えたのは「オーソン・ウェルズのFalstaff('65 原題 "Campanadas a medianoche")のそれだった。あの時代に少ない予算であれだけのすばらしい演出をこなすなんて信じられないよ....大いに参考にさせてもらった」
(Carinya's note・・・この映画超おすすめ。戦闘シーンはブレイブハートに負けない迫力。今さらながらウェルズの才能とセンスに脱帽する!)
さらに戦闘シーンを組み立てるために模型まで作ったそう。そして「ストーリーボードももちろん作成した。でもそいつの虜になるのは考えものだよ。あくまで自分達がどの方向にいったらいいか、ざっと教えてくれるバイブルのようなもの」何よりも優先的に考えたのは安全性だ。指折りのトップスタントマン2人とじっくり検討した。おかげで足首をねんざしたエキストラが1人出ただけですんだそうだ。現アイルランド予備軍の兵隊たちをエキストラに頼んだのも、ある程度の肉体的訓練が出来ているということを見込んだ上。
ここでちょっとくだけた話。戦闘シーンでイングランド軍に向かっての例のお尻丸出し(moony)ショット。あそこで写ってたのは50数人だが、もちろんこれはMoony shotとしてはギネスブックもの。ところが撮影時はシャイなアイルランド人らしく皆初めは抵抗したそうな。下世話なイギリスのタブロイド誌によると「尻を出したものには特別ボーナスが出た」等と書かれたらしいが、実際はメル・ギブソン監督の説得と熱意にうたれて、が正解。