銭湯に行かなくなって久しいが、子供の頃はまだ内湯を持ってる家は多くなく、毎日のようにまるで遊びに行くような感覚で行ったものだ。確かに昔あらゆるところでみかけた純日本的建築様式、そびえ立つ高い煙突を持った銭湯は、子供にとっても大人にとっても一種の社交場だった。大人たちは近所のうわさ話や世話話に花を咲かせ、情報を交換し、子供らは広々とした脱衣所の床におかれたカゴの間を走り回って叱られたり、大きい方の湯船は水泳プールになったり(^^;)。
男湯と女湯を隔てる壁越しに会話はもちろん石鹸が行き来したりも。大きなアナログ体重計に乗って一喜一憂する年頃の女の子。湯上がりに最高な瓶入りのコーヒー牛乳やフルーツ牛乳...ちなみに今この手の飲み物はこれでもかというほどスーパーの棚に並べられているが、銭湯で飲んだあの瓶入りのコーヒー牛乳に勝るものにいまだお目にかかってない。数少なくなった今もまだ銭湯に行けば飲めるのだろうか。
こんなことを思い出したのはまさにその銭湯を含む「風呂」をテーマにしたとても面白い漫画、ヤマザキマリ作「テルマエ・ロマエ」を読んだからだ。ふだんほとんどコミックに親しんでない私が即Amazonで注文したのは、ネット閲覧中の何かの折に紹介されてたおすすめ文が気に入り、銭湯のカランを持ち赤い手ぬぐいを肩にかけた素っ裸の古代ローマの男が、みごとなデッサンで描かれたちょっとドキッとしてしまうカバーに惹かれ、たくさんの読者レビューを読んでこれは是非手に入れねばと直感したからだが、実はとてもタイミングよく先月いっぱいかけてあの塩野七生の大作「ローマ人の物語」(これについてもいつか書きたいと思ってる)を最初からまた読み直したこともあって、私の気分が古代ローマモードになってたことが大きい。
この漫画の爆笑を誘う面白さ、滑稽さは読者のレビューを読んでみればいいし、特にちょっとでも古代ローマに興味や知識がある方には、とにかく手に入れて見てとすすめたいのでくどくど書かないが、漫画に違いないんだけど、作者は画家、ご主人はイタリア人の歴史家というだけあって、平和なハドリアヌス帝時代の歴史的要素や古代のローマの風俗、建物の様子、当時使われていた道具などよく再現されていて感心した。へぇーっと思うような用具などあったりしたことがわかる。所変われば品変わるだ。また人物描写もハドリアヌス帝の顔など残ってる彫像とそっくり!
違う時代、場所にワープして異体験するというアイデアは珍しくないが何よりもそれを「風呂限定」にしたところが、それだけで笑ってしまう。つまりそれだけ古代ローマ風呂好き文化に、やはり世界でも有数の風呂好き日本人が共感する部分が多いからだろう。漫画に現れる主人公が作った一風荒唐無稽と思われる浴場の数々も、あれだけ機能や快適さを追求した古代ローマ人なら、ひとつやふたつあったとしても驚かない。なんたって国境警備のローマ軍の基地にさえ浴場を作るという国民だった。上下水も完備してたし、トイレだって原始的にしろ水洗だった!
またこの漫画のいいところは古代ローマだけでなく、ちょっと前の我が日本の良き風呂文化や田舎の素朴な人たちのホスピタリティなどにもスポットを当てて登場させてる点。忙しい都会にいて時間に追われてるととかく心も体もギスギスしがちだが、この漫画を読んでさっそくすぐにでも休みを取って田舎の温泉なり湯治場なりにいきたい!と思ったのは私だけではないだろうと断言できる。遠くには行けないからしかたがない、近場の岩盤浴にでも行ってほぐしてくるか(笑)
とにかく久しぶりに大笑いをして楽しんだ良質なコミック。何を今頃って感じで去年暮れに出版されて以来売れまくっているらしくAmazonでは新刊はただいま在庫切れ。でもすぐ増刷されると思う。第2巻も出るらしいが待ちきれない。
BEAM COMIX「テルマエ・ロマエ」I ヤマザキマリ(著)2009年11月
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